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母と娘の仲直り作戦

もう半年以上、母と口をきいていない。アドレス変更、着信拒否、出来ることはほとんどやった。そもそも血が繋がっているからと言って、仲が良いとも限らない。こんな親子は、たぶん、うちだけじゃないはず。
母73歳。ハタチで私を生み、育てた。無償の愛を注いでくれた人である。そして当然のことながら、無償の愛を注いでくれる存在とは、その多くが完璧ではない。
好きと嫌いの間を何度も往復しながら大人になった。ただし一緒に過ごせる時間も、そう多くは残っていない。季節は夏。もう、これしか無いだろう。母に電話をかけた。
「爺ちゃんの墓参り行く?」
「うん、行く」
母は躊躇することなく、あっさり決まってしまった。
当日は、気づまりにならないよう、妹分の老犬も連れてゆく。線香に蝋燭(ろうそく)、雑巾、バケツなど、墓参りグッズを車に積み込み、花を買った。
到着。家を出る時は快晴だったのに、あたり一面霧に覆われ重たい空気が身体にまとわりついた。それでも一心不乱に草をむしり、墓石の汚れを落とす。細かな話はしない。難しい話もしない。久しぶり、もなければ、ごめんね、もない。
「暑いね」
「すごく暑いね」
そのうち愛犬が「ねぇ、みんな何してるの? 私も入れてよ」と落ち着かなくなってくる。彼女を抱いて柵の外に下ろし、ようやくお墓がきれいになった。母は晴れ晴れとした表情だ。ところが最後の最後、この湿度でマッチが湿気てしまったのか、火が点かない。
「また来なきゃダメだね」と母。
「また来ようよ」と私。
互いを選ぶことはできないが、縁あって親子。墓は先祖と子孫を結ぶだけでなく、喧嘩中の母と娘も繋いでくれるようだ。真夏の向日葵はすっかり霧雨に濡れそぼってしまったが、爺ちゃんはきっと喜んでくれたに違いない。