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墓のある人生

久し振りの帰省。
「菩提寺の過去帳によれば昔は羽振りが良かったらしいよ」と、元禄時代からの戒名が刻まれた先祖代々の墓誌の前で我が家の歴史を息子に語る。
「江戸時代は大地主の庄屋だったのか。それが没落しちまって、今は切れ痔の方の痔主か」と、息子が笑う。
いわゆる『墓マイラー』の私は旅先でもちょくちょく墓地を巡る。
北海道稚内の丘に上ればキリスト教に仏教も様々な宗派の墓……
墓碑銘に目を留めると乳幼児の死亡率の高いこと!……
さいはての地の厳しい風雪の中で逝った人の潔さが如実に窺われる「墓」とたった一字を彫った墓……。
京都奈良で歴史上の有名無名の人の墓の裏に廻って思いがけない発見に驚くこともあった。
――そんな私にとって、我が家の墓は格別だ。
「人間、生きてる間より死後の墓暮らしの方がずっと長いんだ。墓のない人生ははかないとも言うし」と力説する父を、今まで小馬鹿にしてきた息子だった。
「そもそもお墓なんてヨ、誰のためのものなんだ? この世の人の見栄とプライドで建立するんだろ? 死んだ人にとっちゃあ、知らぬが仏じゃねえか」と。
その息子が先祖のルーツを彫った墓誌を眺めながら、思いがけないことを言う。
「コンクリートジャングルの中の俺のウチよりここは日当たりがいいなあ。千の風になってさまようよりずっと居心地がいいかもしれねえな。俺もここに入れてもらおうかな?」